「審判の目をいかに引き付けるか」採点により順位が決まる競技は選手の持つ表現力が大きなポイントとなる。アテネ五輪でチーム、デュエットとも金メダルが期待できるシンクロナイズドスイミングもそのひとつ。大阪市在住の石崎共美さんは、日本チームの振り付けや表現指導をボランティアで一七年近く担当している。
「それまでのシンクロは、単に曲に合わせて踊るリズムダンスだった。私は振り付けにテーマ性やストーリー性を取り入れました」
石崎さんがシンクロの振り付けを始めたのは、昭和六二年ごろ。一三年間所属していたOSK日本歌劇団を退

団後、大阪市住之江区のフィットネスクラブでダンスのインストラクタ



ーをしていた。そのクラブに井村雅代ヘッドコーチが主催する「井村スイミングクラブ」のメンバーも通っていたことから、指導を依頼された。
男役のダンサーで観客の視線を引き付けてきた石崎さんだけに、シンクロの振り付けコーチはうってつけだった。
その石崎さんの振り付けが最初に世界の注目を集めたのが一九九二年のバルセロナ五輪。
競技中は笑顔を絶やさない事が、何より大切だと思われていたシンクロの常識を打ち破り、まったく笑わない「夜叉」の振り付けで、奥野史子選手が銅メダルに輝いた。
「井村さんから『奥野に合った振り付けを考えてくれ』といわれて、考え出しました。笑わないというのは、どうなんやろという葛藤はありましたが、最後の責任は井村コーチらがとるやろって気持ちでしたね」
石崎共美さん
「心の中 表現できるパワー与えたい」
石崎さんが指導するうえで、もっとも大切にしているのが、
「いかに強く、美しく見せれるか」。そのために、顔の表情や手の動きだけでなく、歩き方まで陸上で十分にトレーニングを積んでから、プールに入る。
そこから水中での動きに合わせて、改良を加えて振り付けを完成させる。
「踊りはパフォーマンスして、なんぼですけど、シンクロは採点の世界なんで、パフォーマンスだけでも技術だけでもだめ。その駆け引きが難しい。さらにシンクロ界ではどうしても『ロシアが一番』という偏見みたいなものがありますから、それをどう打ち破るかですね」
と石崎さんは振り付けの難しさを話す。

技術、パフォーマンス完璧なら”金”可能
その壁を痛切に感じたのが、四月にアテネで行われた五輪予選だった。デュエットの立花美哉・武田美保ペアは、アテネの本番で使用するはずだった「歌舞伎」を実践で初披露したが、思った以上に得点が伸びず、ロシアに一点差の二位。「日本色を出し過ぎ」「(歌舞伎の『見え』が)外国人審判
には、わかりにくい」などの意見が相次いだ。
このため、石崎さんは井村ヘッドコーチらと話し合い、急遽「歌舞伎」に代わる振り付けを考案。
現在、大阪府門真市で行われている合宿で最後の調整を行っている。
「テーマは歌舞伎と同様に『和』ですが、曲も振りも一から洗い直しています。ロシアは一見、美しく見えるけど、心の中を出せるのは日本だけ。表現とアピール度が百パーセントなら、打倒ロシアは可能です。自分の持つパワーとエネルギーを選手に与えたい」
と意気込む石崎さん。
日本シンクロ界初の五輪金メダルは、アテネのプールサイドで見守るつもりだ。